
「違う。困るのは、俺じゃなくて」と言いかけた俺が、旅先でレンズの前に手をかざし続けた事情
コラム
窓ぎわで言いかけた言葉の続きを、俺は帰りの電車でも口にしないままでした。
その前日、スマホのレンズがこちらを向くと、考えるより先に手のひらが顔の前へ上がりました。付き合って4か月の彼女と、初めて泊まりで訪れた温泉宿の足湯でのことです。この旅行で、その手を見せたのはもう3回目でした。
お店の隅で撮られた寝顔
大学2年の飲み会で、酔ってお店の隅で眠ってしまったことがあります。その寝顔を友人が撮り、「おい、こいつ寝てるぞ笑」と面白半分でSNSに載せました。投稿は知らない人の間にも回り、顔をからかうコメントがいくつもつきました。
写真の端には、隣に座っていた同じゼミの女の子の横顔も小さく写っていました。「この子は彼女?」というコメントからその子のアカウントが見つけられ、知らない人からメッセージが届くようになったそうです。その子はアカウントを消しましたが、投稿は今も俺の名前で検索すれば出てきます。
それ以来、レンズを向けられると手が先に上がるようになりました。駅前の看板の前でも、ロビーの花の横でも、笑ってごまかしました。足湯で「ちょっとこっち向いて」と言われたときは、笑うだけでは済まない気がしたのです。
「写真だけは、ごめん」
料理だけだと言われても
彼女が旅先の景色や料理をSNSに載せているのは知っていました。夕食の席で料理を撮ろうとする彼女を見て、箸を置いて聞きました。
「それ、どこかに載せたりする?」
「料理だけだよ」
「そっか」
そう返しながら考えていたのは、俺と並んだ写真が彼女のアカウントに載ったときのことでした。あの投稿を覚えている誰かが見つけたら、今度は彼女のところに知らない人からのメッセージが届くかもしれない。友人に彼女を紹介していないのも、同じ理由でした。情けなくて、理由は言えませんでした。
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窓ぎわで言えなかった続き





























