初めての遠出デートの帰り、高速でサービスエリアに3回も寄った彼。長く待たせて戻る手はほとんど手ぶら

コラム

戻ってきた彼の手には、自分用の缶コーヒーが1本だけ。「疲れてる?」と聞いた私の声はとがっていて、彼は前を向いたまま短く答えました。

ウインカーの音が鳴り、車はまた左の車線へ寄っていきました。初めての遠出デートの帰り道、高速に乗ってから彼がサービスエリアに入るのは、これで3回目でした。

定休日の札がかかったパン屋の前で

付き合って3カ月の彼と、車で2時間ほどの湖のある町へ出かけた日のことです。行き先も店も、ほとんど彼が決めてくれていました。

私がお願いしたのは、町の外れにある小さなパン屋に寄ることだけでした。子どもの頃に家族旅行で食べた牛乳パンの味が、忘れられなかったのです。

ところが、着いた店のシャッターには定休日の札がかかっていました。

「残念。ここの牛乳パン、好きなんだよね」

札を見上げたまま口にすると、彼はスマホで店の情報を開き直してから頭を下げました。

「ごめん、定休日まで見てなかった」

「大丈夫、また来ればいいし」

笑って返すと、彼は小さくうなずいて車のキーを握り直しました。

帰りの高速に乗ってすぐ、彼は「ちょっとトイレ寄っていい?」と最初のサービスエリアに入りました。トイレにしては長いと思いながら15分ほど待つと、彼は手ぶらで戻ってきました。

短い返事と、ラジオの天気予報

2回目に寄ったのは、それから30分も走らないうちでした。

「ごめん、もう1回寄るね」

理由は言わないまま、彼は建物の中へ早足で入っていきました。またなの、と思いながら、助手席のシートを少し倒しました。

戻ってきた彼の手には、缶コーヒーが1本。自分の分の缶コーヒーだけかよ、と心の中でつぶやきました。

走り出してからも、彼の口数は増えませんでした。行きは音楽の話で盛り上がっていたのに、帰りの車内に流れるのはラジオの天気予報ばかりです。

「疲れてる?」

自分でも分かるくらい、とがった声が出ました。

「ううん、大丈夫」

前を向いたままの彼の返事に、私は窓の外へ顔を向けました。疲れていないなら、どうしてこんなに何度も止まるのか。私が何か怒らせたのだろうか。

  • X
  • Line