「ごめん、明日は仕事になった」と私の実家に来なかった夫→玄関でGPSの画面を向けると、返ってきた一言

コラム

母が持たせてくれたタッパーを冷蔵庫にしまう前に、帰ってきた夫へスマホを向けました。「ここにいたよね」。夫が口を開くまでの間が、長く感じられました。

その数時間前、母が取り分けたちらし寿司の横で、地図の上の夫は、会社とは別の駅前から動いていませんでした。

帰省の前日に聞いた「仕事」

結婚して3年。連休が来るたび、私は夫の実家に顔を出してきました。義母と台所に立ち、親戚の集まりにも欠かさず並びました。

一方で、夫が私の実家に来る回数は減っていました。

帰省の前日、台所で皿を洗っていた私に、夫は言いました。

「ごめん、明日は仕事になった」

夫の職場は、休日出勤も珍しくありません。それでも、母が楽しみにしていると伝えたばかりでした。私は短く答えました。

「……分かった。お母さんには言っとく」

蛇口を閉めながら、不公平だという言葉を飲み込みました。私は毎回、夫の家族に会いに行っているのに。

地図の上で動かない夫のアイコン

翌日、実家には1人で帰りました。

母は、夫の好物のちらし寿司を作って待っていました。

「お仕事なら仕方ないわね」

そう言いながら、母は夫の分を取り分けた皿を、空いた席の前に置いたままにしていました。

食事のあと、夫に「お疲れさま」と送ろうとスマホを開きました。ついでに、GPSで位置を共有するアプリも確かめました。結婚したときに2人で入れたものです。

夫のアイコンは、会社のある駅から2駅離れた繁華街にありました。地図を広げると、周りに並ぶのは居酒屋の印ばかりでした。

母がお茶を入れ直したあとに開いても、位置は変わっていませんでした。店までは分からなくても、見当はつきました。夫が大学時代の友達と、昔から集まっている街です。

私はスクリーンショットを撮り、「お疲れさま」は送らずにアプリを閉じました。夫が言った「仕事」は、母の中でそのまま事実になっていました。

帰り際、母は残ったちらし寿司をタッパーに詰め、夫の分だと言って持たせてくれました。

家に戻ってしばらくすると、玄関の鍵が回る音がしました。

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「ここにいたよね」
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