
杖の女性の前で目を閉じる会社員に「お休みみたいですから」と言った私→終点で知った事情
コラム
優先席で目を閉じたままの男性を、私は寝たふりだと決めつけていました。ところが終点でも席を立たず、ホームの駅員へ片手を上げたのです。
優先席で目を閉じている男性の右の靴は、紐がほどけたまま座席の前に投げ出されていました。
杖の音に、まぶたは動きませんでした
残業を終えた帰りの電車で、私は扉の脇に立っていました。目の前の優先席には、スーツ姿の会社員が鞄を膝に載せ、目を閉じたまま座っています。
2駅目で、杖をついた女性が乗ってきました。女性は優先席の前まで進み、つり革をつかみました。杖の先が床を打つ音は、はっきり聞こえます。彼のまぶたは動きませんでした。
ただ、鞄の持ち手を握る指に力が入ったのは見えました。起きている、と私は決めました。
「お休みみたいですから」
女性は何も言わず、揺れるたびに杖を持ち直していました。私は女性のほうへ身体を向けて、彼に届く声で言いました。
「お休みみたいですから、こちらは無理ですね」
女性は小さく笑って首を振りました。彼の目は閉じたままで、顔が私のほうを向くこともありませんでした。ほどけた靴紐が、電車の揺れに合わせて床を滑っています。
足を投げ出して、杖の音にも知らないふりをする人。そう決めつけて、私は3駅ぶん、彼の靴の先を見ていました。女性は、そのまま座れずに降りていきました。
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説明する義務はない、と彼は言いました



























