杖の女性の前で目を閉じる会社員に「お休みみたいですから」と言った私→終点で知った事情

コラム

説明する義務はない、と彼は言いました

終点に着き、乗客が扉へ流れていきました。私もホームへ出てから、車内を振り返りました。彼はまだ座っていました。終点なのに、まだ寝たふりを続けるのかと思いました。

ところが目は開いていて、ホームにいた駅員に向かって片手を上げています。何をしているのだろうと見ているうちに、駅員が車内へ入り、彼の腕を自分の肩に回して立ち上がらせました。右足が、床につかないまま浮いていました。私は、ほどけた靴紐と前に投げ出した足を見直しました。鞄を握っていた指にも、力が入っていました。感じが悪いと思っていた姿が、痛む足をかばうためだったと分かりました。

「足をひねっただけなので、タクシー乗り場までで大丈夫です」

その声で、3駅前に自分が言った「お休みみたいですから」が戻ってきました。聞こえるように言ったことまで、全部です。私は鞄の持ち手を握り直して、2人のところへ歩いていきました。

「さっき、聞こえるように言いました。すみませんでした」

「聞こえてました」

彼は駅員の肩を借りたまま、私を見ました。

「でも、別に説明する義務はないと思ってたので」

私は顔を上げました。決めつけたのは私です。目を閉じていることだけを見て、席を譲れる人だと思い込んでいました。

「そうですか」

私はそれだけ返して、彼の右足を見ました。あの3駅の間、本当に眠っていたのか、起きていて黙っていたのか。聞けませんでした。

そして...

駅員と私で、彼をタクシー乗り場まで送りました。鞄は私が持ちました。乗り込む前、彼は言いました。

「あの人には、言えばよかったです」

私は「そうですね」とだけ返しました。彼にも話したいことがあったのかもしれません。それでも、事情を知らないまま寝たふりと決めつけて嫌味を言ったのは、私のほうの問題でした。

あの日から、優先席に座っている人を見ても、その人が座っている理由まで勝手に決めないようにしています。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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