
息子が掘ってきた細いサツマイモ2本。夫がスーパーで買ってきた立派な芋を見て、息子は下を向いた
コラム
戸を引いて
「ちょっと来て」
夫を廊下に呼び、戸を引きました。息子に聞かせたい話ではなかったからです。
「あの子は、美味しいサツマイモご飯より、自分が頑張って取ってきたサツマイモで作るご飯が食べたいの。私も今は、普通のスーパーのやつは食べたくない」
夫は台所のほうに目をやり、しばらく黙っていました。
「そうだよな。悪かった」
台所に戻ると、夫は息子の前にしゃがんで目線を合わせました。小さな声で何か言ったようでしたが、戸の前に残っていた私には聞き取れませんでした。息子は芋を抱えたまま、夫の顔を見ました。
「そのおいものごはん、パパにも少し分けてくれる?」
「パパのぶんも作る」
それから息子は踏み台をシンクの前に運び、ブラシで2本の土を落としていきました。傷のところを避けて切るのは私の役目で、塩を量ってお米の上に芋を並べるのは息子の役目。夫は買ってきた芋をアルミホイルで包んでオーブントースターに入れ、残りの1本で豚汁を作りはじめました。
そして...
炊き上がったご飯の芋は、ところどころ筋っぽく、甘さも控えめでした。それでも、夫の焼き芋と豚汁も並んだ食卓で、3人そろって口に運びました。
「このおいもが、一番おいしいね」
「うん。パパもそう思う」
息子は口の端にご飯粒をつけたまま、目を細めて笑いました。いつもは小食気味なのに、空になった茶碗を両手で差し出し、おかわりまでしたのです。
ただ、あのとき息子に何と声をかけたのか。廊下で黙り込んでいたあの間、何を思い浮かべていたのか。夫にはまだ聞けていません。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)






























