「それだけは無理」友人のカメラを受け取らず、見知らぬ夫婦に撮影を頼んだ私。その理由は

コラム

背中に回った両手

岬の展望台で自分の撮影を終えると、友人が白い枠の前に立ちました。

「ここでは私を撮って。設定は全部しておくから、シャッターだけ押して」

前から楽しみにしていた場所で、友人が撮ってほしいと言った大切な1枚。けれど私が押せば、きっとまた傾いてブレてしまう。それがこの旅でたった1枚の友人の写真になってしまう。そう思うと両手は背中に回り、足が一歩下がっていました。

「それだけは無理」

私より上手な人に撮ってもらったほうがいい。頭に浮かんだのはそれだけで、すぐ後ろにいた夫婦に「すみません、この子を撮ってもらえますか?」と声をかけていました。

友人に「ちょっと待って」と袖を引かれても、引き下がれませんでした。係員の方に「次はこちらのご夫婦の番ですので、一度枠の前から離れていただけますか」と言われ、「この子、まだ撮っていないんですよ」と言い返してしまいます。

「でしたら、列の後ろに並び直してお待ちください」

並んでいる人たちの前を通り、私は最後尾まで歩きました。写真を失敗するのが怖いという自分の事情で、撮る役目をずっと友人に押しつけていたことには、そのときまで気づいていませんでした。

そして...

奥さんにカメラを向けてもらう友人を、列の最後尾から見ていました。

旅館に戻って「明日の分も撮ってね」と言うと、友人はカメラを外してバッグにしまい、こう言いました。

「明日からは、自分のスマホで撮ってね」

私は窓の外に目を向けたまま、うなずくことすらできませんでした。うなずけば、写真が撮れない理由を話さなければいけない気がしたからです。

最終日の駅のホームで、海を見ている友人の背中にスマホを向けてみました。画面の中の友人は少し傾いていて、結局撮影ボタンは押さずにポケットへ戻しました。友人には、撮影を押しつけ続けたことをまだきちんと謝れていません。

(20代女性・事務職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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