
俺が「はじめまして」で通した取引先の担当者。ロビーでの一言を、その上司に聞かれていた
コラム
気づいていないなら、それでいい。そう決めて名刺を差し出した打ち合わせのあと、俺は1階で後輩に余計なことを話してしまいます。後ろに誰が立っていたのかも知らずに。
会議室に入ったとき、課長の隣で資料をそろえている女性の顔に見覚えがありました。後輩を連れて訪ねた、新商品の販促を受注できるかがかかった打ち合わせです。1年前、居酒屋の個室で俺が帰らせた子だと、すぐに分かりました。
笑い話にしていた個室の一言
あの合コンで、俺は盛り上げ役のつもりでいました。入り口近くの席から、遅れて引き戸を開けた彼女を見上げて、口から出たのがこれです。
「ブスは帰っていいよ」
笑いながら言うと、何人かがつられて笑いました。幹事の子が「ちょっと」と言いましたが、気にも留めません。彼女は端の席で1杯だけ飲み、お金を置いて先に帰っていきました。
悪いことをしたとは思っていませんでした。その後の飲み会でも、本当に帰った子がいたと何度か笑い話にしていたくらいです。だから顔を覚えていました。
課長だけを見て進めた打ち合わせ
当日の会議室で、彼女はこちらを見て、すぐ手元に目を落としました。気づいていない、と俺は判断しました。彼女の前に立ち、名刺を両手で差し出します。
「はじめまして」
彼女から名刺を受け取り、「本日はよろしくお願いいたします」と頭を下げて正面の席に座りました。説明の間は、決裁する課長だけを見て話しました。彼女と目が合えば、何か思い出させてしまうかもしれない。納期や配送について彼女に質問されても、答えは課長に向けて返しました。
エレベーターで1階のロビーに降りると、後輩と2人きりになりました。手応えがあったぶん、気が緩んでいたのだと思います。
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名刺入れを差し出したのは





























