
彼女の貯金を「それ生きてて楽しいの?」と笑った俺→旅館の帰りの電車で、飲み込んだ一言
コラム
湯のみを置いて浮かんだこと
食事が下げられ、座卓をはさんで向かい合ったときのことです。湯のみにお茶をつぎ足すと、彼女が背筋を伸ばしました。
「この旅行の代金、あの貯金から出してるんだよ」
湯のみを座卓に戻して、彼女の顔を見ました。
「俺のために貯金してくれてたんだ」
口から出たのは、それだけでした。彼女がうなずくのを見ながら浮かんでいたのは、あの缶の前で笑った日のことです。
もっと良い趣味を、生きてて楽しいのか、と笑ったその貯金で、俺はこの部屋に座っていました。
謝ろうとしましたが、祝ってもらっている場で自分の話を始めるのは違う気がして、窓の外の川に顔を向けました。帰りの電車でも何度か言いかけては、そのたびに飲み込んだのです。
そして...
帰ってから、雑貨屋で缶の貯金箱を買いました。マスキングテープに「彼女貯金」と書いて貼り、500円玉ができるたびに入れていきました。行き先は、まだ決めていません。
缶が少し重くなった頃、彼女の部屋で打ち明けました。
「貯金ってためてる間は使うときのことを考えるから、結構楽しいな」
彼女は「でしょ」とだけ言って、自分の缶に500円玉を落としました。
あの日笑ったことは、まだきちんと謝れていません。俺の部屋の棚の缶には、今も少しずつ500円玉が増えています。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)






























