
昼休みになると紙袋を持って消える先輩→後を追うと屋上へ続く階段の踊り場にあったのは
コラム
「しばらく内緒にしてくれる?」と頼まれて
踊り場から見下ろすと、缶コーヒーを手にした先輩が、こちらを見上げて足を止めていました。
「見つかっちゃったか」
先輩はそう言って笑うと、残りの段を上がってきて、椅子の上の本を取り上げました。カバーのかかった本を、胸に押し当てるように抱えています。
「すみません、先輩を探していて」
頭を下げた私に、先輩は少し間をおいてから言いました。
「しばらく内緒にしてくれる?」
「わかりました」
そう答えたものの、私は本当は、辞めるんですかと聞きたかった。けれど、本を抱えたままの先輩を前にして、その問いを飲み込み、もう一度頭を下げました。先に階段を下りて、自分の席へ。
そして...
それからも先輩は、休憩のたびに紙袋を持って席を立ちました。
「ごめん、用事あって」
誘うたびに返ってくるのは、いつも同じ言葉。私はうなずくだけで、後を追うことはもうしませんでした。約束どおり、階段のことは誰にも話していません。
あの踊り場で先輩が開いているのは、どこへ向かうための本なのか。答えは、まだ聞けていません。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)































