息子とは笑うのに、お嫁さんの前では「ああ」と「そうか」だけ。俺が妻と交わしていた約束

コラム

言いかけた「あのな」の続き

帰り際、玄関へ出ると、靴をはいていたお嫁さんが振り返り、車のキーを持った息子もこちらを見ました。俺は上がり框に立ったまま、今度こそ伝えようと決めました。

「あのな」

本当は、こう言いたかったのです。怖い顔に見えていたなら、それは違う。苦手なんかじゃない。うちでは、気をつかわなくていい。けれど、わけを話そうとすると親父のことから始めなければならず、口を開きかけたまま、廊下へ目をそらしていました。

「気をつけて帰りなさい」

結局いつもの調子でそう言って、奥へ引っ込みました。背中で、お嫁さんの「お邪魔しました」という声を聞きました。

そして...

居間に戻って、妻に聞きました。

「俺、そんなに怖い顔してるか」

「口を結んでるときは、昔からそうよ」

約束のことを持ち出すと、妻は笑って首を振りました。

「口を出さないのと、口をきかないのは別のことよ」

次に2人が来たら、お嫁さんがふすまを開けても、笑うのをやめないつもりです。「あのな」の続きは、今度は玄関ではなく、居間で言います。

(60代男性・自営業)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

  • X
  • Line