「知ってる。だから先に言っておこうと思った」元恋人の家の隣の駅に部屋を借りた俺が、住所まで送ったわけ

コラム

元恋人に送った住所に返ってきたのは、短い本音でした。長い説明を打っては消し、最後に残したのは2通だけ。送らなかったメッセージが、もう1つありました。

引っ越しの前、段ボールの山の隙間で、届いたばかりの物件資料をもう一度読み返しました。駅名の横には、徒歩6分の表示。その駅が誰の家の隣にあるのか、俺はよく知っていました。

通える駅は、ほかにもあった

彼女とは2年付き合ったあと、お互いに納得して別れました。それから少しして、会社で倉庫への配属が決まったのです。倉庫へバスで通える駅は、路線図の上にいくつもありました。

家賃が手ごろ、快速が止まる、倉庫行きのバスが多い。不動産屋で並べた条件は、どれも嘘ではありません。けれど、ほかの駅にも同じくらいの部屋はありました。最後に決めたのは、彼女が毎日乗り換えに使う駅だったからです。付き合っていた頃、改札前のパン屋で2人分のパンを買い、彼女の部屋へ向かったことも覚えていました。

元気にしてるかな。乗り換えのホームで、いつか偶然すれ違えたら。そんな考えを自分でも半分ごまかしながら、契約書にサインしました。

先に言っておく、という口実

黙って住むこともできました。それでも知らせたのは、メッセージを送るきっかけがほしかったからです。駅で急に顔を合わせて、後を追ってきたと思われたくなかったのも本当でした。

長い文章を打っては消しました。「元気?」と打って、それも消しました。結局「引っ越した」とだけ送り、続けて住所を貼りつけました。住所まで添えれば、何か返ってくるかもしれないと思ったのです。

既読はすぐにつきました。しばらくして届いたのは、どうしてその駅なのか、家の隣ではないかと確かめる2通。迷った末に返したのは、この1通だけでした。

「知ってる。だから先に言っておこうと思った」

そのあと届いたのが、次のメッセージでした。

「正直ちょっと怖い」

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