「なんで3本も買ったの」と聞かれた俺→ドラッグストアの棚の前で20分迷っていたわけ

コラム

ドラッグストアの棚の前で、俺はテスターのふたを順番に開けて匂いを確かめていました。気づけば、肝心の食料品を何1つ買わずに店を出ていたのです。

実家から帰ってきた彼女が、持ち帰ったタオルに顔をうずめていました。「やっぱり、うちのタオルの匂いって落ち着く」と、つぶやくように言います。同棲して3年になりますが、あんな顔を見たのは久しぶりでした。

ドラッグストアの棚の前

2週間ほどたっても、あのときの彼女の顔が頭から離れませんでした。
あの匂いを、2人の部屋でも出せないだろうか。
仕事帰りにドラッグストアへ寄り、柔軟剤の棚の前に立ちました。
ところが、似た匂いがいくつもあって1つに絞れません。
店員さんに聞こうにも、どんな匂いなのかをうまく言葉にできないのです。
テスターのふたを開けては閉め、気づけば棚の前で20分ほどたっていました。
迷ったあげく、近いと思った3本をまとめてかごに入れたのです。
買い物を頼まれたわけではありませんが、帰りに食料品も買うつもりでいました。
それをすっかり忘れていたと気づいたのは、家に着いてからでした。

空の冷蔵庫の前で

袋を洗面台の下に押しこんでから、台所の冷蔵庫を開けました。
卵と調味料くらいしか入っていない棚を見て、つい声が出ます。
「冷蔵庫の中、何もないな」
自分に向けたつもりの一言でした。
「ごめん、買い物行けてなくて」
彼女に謝られて、慌てて首を振りました。
買い物を任せきりにしている俺に、責める資格なんてありません。
「いや、そういうんじゃなくて」
けれど続きを話せば、柔軟剤のことまで言うことになります。
麦茶だけを出して、話を終わらせてしまいました。

  • X
  • Line