「俺に感謝しろ」が口ぐせの俺→祖母への荷物に彼女の名前を書き続けたわけ

コラム

帰りのバスで、彼女の膝の上の漬物の袋を見ながら、俺はようやく口を開きました。祖母があれほど喜んだわけを、彼女はまだ知らなかったのです。

彼女と暮らし始めたことを、電話で祖母に伝えたのは1年前のことです。受話器の向こうで、祖母はしばらく黙りこみました。やがて返ってきたのは、思っていたよりずっと硬い声でした。

電話の向こうの硬い声

「結婚もしないで一緒に住むなんて。その子は、ちゃんとした子なのかい」
両親が共働きだった俺は、子どものころの多くを祖母の家で過ごしました。その祖母に、彼女を悪く思われたままでいるのは嫌だったのです。
そこで始めたのが、毎月の荷物でした。季節の果物を選び、送り状の差出人の欄には、俺の名前と並べて彼女の名前を書きました。
添える葉書には、「彼女が選びました」とだけ。玄関で送り状を書いているところを見られたときは、慌ててポケットに入れました。
祖母の言葉まで、彼女には知られたくなかったからです。

口ぐせと棚の前

「俺に感謝しろ」は、祖母の家で育つうちにうつった言葉でした。祖母はよく、笑いながら「ばあちゃんに感謝しなさい」と言っていたのです。しかし冗談のつもりでも、家事の多くを任せている彼女に何度も言っていい言葉ではありませんでした。
棚を組み立て終えたときも、軽い冗談のつもりで口にしていました。彼女がそれをどう聞いていたのか、考えたこともありません。
荷物を始めて1年がたったころ、祖母から電話がありました。
「梨のお礼を、その子に直接言いたいねえ」
その週末、彼女に頼んだのです。
「ばあちゃんの家に、一緒に行ってほしい」
彼女は少し驚いた顔で、うなずいてくれました。

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