「映画の趣味が合わない女は無理」と言った彼→私の選んだ映画のあと、ロビーの売店に並んだ

コラム

エンドロールが終わって場内が明るくなっても、彼は席を立とうとしませんでした。ロビーで彼が買ったものと、改札の前で口にした言葉。どちらも、私の知らない彼につながっていました。

チケット売り場の画面に、上映中の作品がずらりと並んでいました。その日は、月に一度の映画デートで私が作品を選ぶ番です。指さしたタイトルを見た彼は、ため息まじりに口を開きました。

私が選ぶ番だったのに

付き合って半年の彼とは、月に一度映画を見に行きます。選ぶのは交互で、彼の番はたいてい派手なアクション映画です。
私が選んだのは、家族の日常を描いた地味な邦画でした。
「映画の趣味が合わない女は無理」
彼は笑いながら言いましたが、こちらは笑えません。彼の番では、興味のない映画にも文句を言わずに付き合ってきたつもりでした。
それでも意地になって、チケットはその作品で買いました。座席を決めるときも、彼は画面をのぞき込むだけで、どこでもいいと言うばかりです。

暗がりで聞こえた音

上映が始まってしばらくは、隣の彼が退屈そうにしていないか、そればかり気になっていました。
物語の終盤、家族がそろって食卓を囲む場面になったときです。隣から、鼻をすする音が聞こえてきました。
スクリーンの明かりでそっと横を見ると、彼の頬が光っています。アクション映画では一度も見たことのない顔でした。
エンドロールが流れ始めても、彼は席を立ちません。場内が明るくなっても、涙を拭こうともせず、何も映っていないスクリーンを見つめたままでした。

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