「その靴、大丈夫?」と聞いた3歳年下の俺が、リュックの箱と凍っていない横道に込めていた事情

コラム

「乗って」と言うまで

改札で会った彼女は、やはりあのブーツを履いていました。坂の上まで来たところで、足元を見ながら聞きました。
「その靴、大丈夫?」
「平気」
「一応、履き替えられる靴も――」と言いかけましたが、彼女はそのまま坂へ足を踏み出しました。横道を勧める間もなく、もう数歩先へ進んでいたのです。
その直後、彼女のかかとが滑り、雪の上に尻もちをつきました。立ち上がろうとした彼女が右の足首を押さえるのを見て、先に止めればよかったと悔やみました。
足首を押さえる彼女の前に買い物袋を置き、しゃがんで背中を向けます。
「乗って」
リュックを体の前に抱え直し、買い物袋は彼女に持ってもらって、横道へ入りました。
「こっちの道のほうが、凍ってないから」
背中の彼女は、マンションに着くまで一言も話しませんでした。

そして...

マンションの前で彼女を植え込みの縁に下ろし、リュックからスニーカーの箱を取り出しました。先に1人で道を歩いておいたことも、そのとき初めて話しています。
彼女は箱を受け取ると、しばらく下を向いていました。それから小さな声で「頼りないって言って、ごめん」とつぶやいたのです。足首は軽くひねっただけで、2日ほどで腫れも引きました。
頼りないと言われてきたこの背中に、あの日の彼女は最後まで黙ってしがみついていました。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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