「一番安いので」と店員に言った俺。値札の前で頭にあったのは、自分のことだけだった

コラム

帰り道、彼女の左手に目を落としたまま、俺は言い訳を探していました。けれど、口から出てきたのは、売り場では言えなかった格好の悪い本当のことでした。

売り場で店員さんが指輪を出すたびに、俺の目は指輪ではなく、横の小さな値札に向いていました。隣の彼女の左手には、2週間前に渡した仮の指輪。本物は一緒に選ぼうと言い出したのは、俺のほうでした。

値札の前で分かったこと

仮の指輪でプロポーズして、本物は2人で選ぶ。ネットで見たその形が格好よく思えて、深く考えずに決めました。

「本物は、一緒に選びに行こう」

そう言った時、彼女は本当にうれしそうでした。ただ、本物の指輪がいくらするのか、俺はちゃんと調べたことが一度もありませんでした。

売り場で値札を見て、ようやく分かったのです。今の貯金では、並んでいる指輪のほとんどに届かない。この1年、カメラのレンズや飲み会に使った分を、きちんと数えたこともありませんでした。

彼女の「これがいいな」に返した言葉

「これがいいな」

彼女が左手を見せてきたのは、細い線がねじれた指輪でした。値札は、さっきから目で追っていた中でも高いほう。とても届く額ではありません。

お金が足りないと、彼女と店員さんの前で言うのは格好悪い。そう思った瞬間、彼女の手元から目をそらし、ショーケースのほうを向いたまま口にしていました。

「一番安いので」

「でしたら、こちらになります」

店員さんが出してきた細い指輪を見て、これなら払えると思い、彼女に聞きました。

「これでいいよね」

指輪なんて、どれも似たようなもの。どこかでそう思っていたのも本当です。

「今日は、決めなくてもいい?」

彼女の声を聞いても、疲れたのかな、くらいにしか考えていませんでした。

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