「孫の顔はまだ?」と嫁に聞き続けた私。喫茶店で友人たちに口にした約束

コラム

喫茶店で友人たちが順番に孫の写真を見せる中、私にだけ番が回ってきません。半年前につい口にした一言が、嫁への催促を強くしていきました。

クローゼットの奥に、ふたをした箱を1つしまっていました。中身を知っているのは私だけです。嫁に言い返されたあの日、息子夫婦を見送って真っ先に開けたのも、その箱でした。

眺めるだけだった友人たちの写真

月に1度、手芸サークルのあとに仲間と寄る喫茶店。席に着くと、決まって誰かがスマホを取り出します。

「見て、もう歩くようになったのよ」

画面には、小さな靴をはいた孫の写真。次の人も、その次の人も、同じように画面を差し出します。6人のうち、見せる番が回ってこないのは私だけでした。

半年前、「あなたのところは?」と聞かれ、つい口がすべりました。

「うちも、来年には見せられるわ」

根拠なんてないのに、帰りにデパートで白いよだれかけとガラガラのセットを買い、箱ごとクローゼットにしまいました。

嫁から来春に新しいチームを任されると聞いたとき、口から出たのはこの一言でした。

「仕事なんて、いつでもできるでしょう」

私は子どもを産んでから、働き口を探したのです。嫁の仕事の話など、本気で聞く気はありませんでした。

息子の言葉をさえぎった食卓

あの日も、玄関の引き戸が開く音を聞くなり、台所から声をかけました。

「孫の顔はまだ?」

サークルの集まりは翌週に迫っていました。食卓でもう一度「孫の顔はまだ?」と繰り返し、取り皿を配りながら嫁の年を数えます。

「32歳でしょう。もうのんびりしていられないわよ」

返事がないので、さらに続けました。

「私が元気なうちに、早く孫を抱っこさせてちょうだい」

「母さん、その話は」

息子が口をはさんだのが気に入らず、顔も向けずに返しました。

「あなたは黙ってて。これは私の楽しみなんだから」

楽しみ、と言ったとき頭にあったのは、喫茶店でようやく自分の番が回ってくる場面です。嫁がどんな顔で聞いていたのか、私は見ていませんでした。

  • X
  • Line