
「一番安いので」と店員に言った俺。値札の前で頭にあったのは、自分のことだけだった
コラム
コンビニの角で聞いた彼女の気持ち
帰りの電車で、彼女は一言も話しません。窓の外を眺めながら、俺が考えていたのは来月の支払いのことでした。
駅からの道を、彼女は俺の半歩うしろで歩いていました。コンビニの角の手前で、俺は振り返りました。
「怒ってる?」
「一緒に選ぼうって言ったの、そっちだよ」
何か言いかけた俺を待たずに、彼女は続けました。
「一生の記念になる指輪だから、予算のことも含めて、一緒に選べると思ってた」
彼女の声は、少しずつ大きくなっていきました。
「なのに、私の顔も見ないで決めたよね」
彼女の左手に目を落としたまま、あの売り場で自分が何を見ていたのかを思い返しました。彼女の指でも顔でもなく、値札と、自分の財布のこと。頭にあったのは、自分のことだけでした。
そして...
言い訳を探すのをやめて、顔を上げました。
「ごめん。お金、全然足りなかった。言うのが格好悪くて、安いのって言えば済むと思った」
「最初から、そう言ってよ」
彼女はそう言って、少しだけ笑いました。その左手を見て、俺は約束しました。
「ちゃんと貯めるから、あの指輪にしよう。それまで待ってほしい」
新しいレンズは、あの日から買っていません。給料が入るたびに決まった額を別の口座へ移し、彼女が選んだ指輪の名前は、スマホのメモの一番上に残しています。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)































