妻が帰ってきたのも、牛乳を頼まれたのも知っていた→「ねえ、見てる?」にも俺が返さなかったわけ

コラム

机の上で鳴り出したスマホを、俺は握ったまま鳴り止むのを待ちました。ドアを開けて顔を出した妻にとっさに返したのは、本当のことではありませんでした。

その少し前、玄関のドアが開く音に続いて、レジ袋のこすれる音がしました。ヘッドホンの片耳を外していたので、妻が帰ってきたことはすぐに分かりました。それでも、自分の部屋のドアを開ける気にはなれませんでした。

ジムを早めに切り上げた日

その日は、ジムを30分で切り上げて帰ってきていました。発売されたばかりのゲームを、早く進めたかったからです。

帰り道、ロック画面に妻からの通知が浮かびました。

「来月の連休、久しぶりに2人でどこか行かない?行きたいとこ考えといて」

連休の予定なんて、あとで考えればいい。家に着くと妻は出かけていたので、そのまま自分の部屋に入り、パソコンでゲームを始めました。スマホは、通知が見えるよう画面を上にして机に置きました。

ロック画面で読んでいた文面

妻が帰ってきてしばらくすると、机の上で続けてスマホが震えました。

「まだジム?」

「帰りに牛乳買ってきてほしい」

妻は、俺がまだ外にいると思っている。ロック画面の文面で、それが分かりました。

ゲームはちょうど、負けたら最初からやり直しになるボス戦の途中です。ここで家にいると返せば、今すぐ買いに行かされます。黙っていれば、そのうち妻が自分で行くだろう。そう考えて、チャットは開かずにおきました。

2分後に届いた通知はこうです。

「ねえ、見てる?」

見てはいました。文面は、ロック画面で1つ残らず読んでいたのですから。壁の向こうからは、ベランダの戸を開け閉めする音も聞こえていました。

しばらくして、机の上のスマホから着信音が鳴り出しました。メッセージの通知は振動だけにしていたのに、着信音を切るのを忘れていたのです。

ヘッドホンを首まで下ろしてスマホをつかみましたが、ここで切れば、拒否したことが妻に伝わる気がしました。画面に出た妻の名前を見ながら、鳴り止むのを待つことにしました。

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とっさに出た言葉
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