
「押せば止まるだろ」記念日旅行の新幹線で非常停止ボタンを押した彼→ホームで私が駅員さんに告げた一言
コラム
動き出した新幹線を止めたのは、隣にいた彼でした。駆けつけた駅員さんに彼が口にしたのは「子どもがホームに落ちそうに見えて」
でも、あのホームに子どもの姿はなかったのです。改札前の時計を、もう何度も見上げていました。付き合って3年の記念日旅行で、新幹線の指定席も温泉宿も、予約したのは私です。発車まで10分を切っても、彼はまだ現れませんでした。
「なんとかなるって」が口癖の彼
彼は昔から時間にゆるい人です。映画に遅れても、待ち合わせに遅れても、決まって「なんとかなるって」と笑います。そのたびに私が先に動いて、どうにか間に合わせてきました。
この日も改札前に着いたのは約束から15分遅れで、「ごめんごめん」と手を振りながら。急ごうと言う私を置いて、彼は「コーヒーだけ買ってく」と売店へ向かいます。
「本当に間に合わなくなるよ」
「なんとかなるって」
いつもの返事を聞きながら、私はチケットの画面を開いたまま、レジに並ぶ彼の背中を見ていました。
ドアが閉まったホームで
エスカレーターを駆け上がると、ちょうど発車ベルが鳴り終わるところでした。乗るはずだった車両のドアが、目の前で閉まります。新幹線はゆっくりと動き出しました。
次の列車を調べようとスマホを開きかけたとき、彼が柱のほうへ動きました。コーヒーを持っていないほうの手で、非常停止ボタンを押します。
「押せば止まるだろ」
警報音が鳴り響き、動き出していた車両が止まりました。けれどドアは閉まったまま、開くことはありません。
駆けつけた駅員さんは、線路とホームの端を順に確かめてから「ボタンを押されたのはどなたですか」と聞きます。彼はすぐに答えました。
「子どもがホームに落ちそうに見えて」
ホームを見渡しても、ベンチの前にも黄色い線の近くにも、子どもの姿はありません。彼が私の顔を見て、小さくうなずきます。合わせろ、という合図でした。
私は、駅員さんのほうへ一歩前に出ました。
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私が駅員さんに告げたこと





























