隣の女性が注文した中トロを横取りした俺→店長が向けたタブレットと「先輩、私の分は自分で払いますね」

コラム

隣の席の女性が、札の付いた空のお皿をレーンから下ろしました。俺の口の中には、まだ中トロの脂が残っています。反対側に座る後輩は、さっきからこちらを見ようとしませんでした。

後輩の前で見せたかった顔

その日は、入社2年目の後輩を連れて回転寿司に来ていました。仕事を教えている手前、気前のいい先輩でいたかったのです。ただ、給料日前の財布に余裕はありません。俺はレーンのお皿を次々に取って、後輩の前に並べました。後輩が遠慮しても、気にするなと笑ってみせました。

「流れてきたら取ったもん勝ちだろ」

笑ってそう言うと、後輩は控えめに笑い返してくれました。そこへ、小さな札を立てた金色のお皿が流れてきました。中トロが2貫載っています。札を見れば、隣の女性の注文だとすぐに分かりました。お皿ごと取れば、俺の会計に1枚増えます。

俺は手を伸ばして2貫を自分の取り皿へ移し、お皿はそのまま流しました。

後輩が言いかけた言葉

頬張った直後、隣の席のモニターから到着を知らせる音が鳴りました。俺は口を動かしながら、湯のみに手を伸ばしました。

「先輩、それ……」

後輩の声に、俺は首を横に振りました。

「いいって」

隣の女性は店員を呼び、空のお皿を差し出しました。

「注文した中トロが、お皿だけ届きました」

店員は札を見てから、レーンの上流、つまり俺の席のほうへ目をやりました。

「レーンのカメラで確認いたしますので、少々お待ちください」

店のレーンにカメラがあることなど、考えたこともありませんでした。

湯のみのお茶を、俺は一気に飲み干しました。

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