
母が妻を家族旅行に呼ばなかった理由。空けておいたのは、妻が5年座り続けた席でした
コラム
母が空けた席と、送られた言葉
食事の前、母は襖のそばの座布団を指して「今年は、そこには誰も座らないで」と言いました。妹が座布団を少し整えましたが、最後まで誰も座りませんでした。急須はテーブルの真ん中へ置き、瓶ビールも父の手が届く場所へ移しました。誰か1人が料理を受け取ったり、飲み物を気にしたりする席にはしない。それが母の決めたことでした。
食事が終わるころ、母は宿の人に写真を頼みました。襖のそばには、座布団が1枚だけ残っています。写真を撮ったあと、母は妻へのメッセージを打ちました。
「今年は誰もこの席に座りませんでした」
画面を横から見て、これだけで伝わるのだろうかと思いました。それでも俺は、また何も言いませんでした。
しばらくして、母のスマホが鳴りました。「この席は、どうして空いているんですか」母は画面を見たまま、しばらく黙っていました。それから俺にスマホを向けました。
「あんたから話して。私が書くと、また伝わらないから」
そして...
翌日、土産の紙袋を提げたまま、玄関で「写真のこと、話してもいい?」と聞きました。妻がうなずいてから、旅行前に母と妹が5年分の写真を見返したことを話しました。母も昔はずっとあの席に座っていたこと、妻がいない旅行で自分たちが初めて気づいたことも伝えました。最後に、本当の理由を知っていたのに、最初からきちんと伝えなかったことを謝りました。
妻はしばらく写真を見てから、「来年のことは、お義母さんから直接聞く」と言いました。
俺はうなずきました。来年また行くことになったら、宿の予約も父の酒の手配も、今度は俺がやるつもりです。
(30代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)






























