
「会社員」とだけ答えていた僕→雨の日に「ごめん、今日バタバタしてた」と返しながら貯めていたもの
コラム
雨合羽のフードを伝う雨粒の向こうに、彼女が立っていたことを、僕はまったく知りませんでした。雨の日の返事が遅い本当の事情も、彼女にはまだ話していなかったのです。
トラックのワイパーが、せわしなく動いていました。助手席に置いたコンビニの袋は、今日も開ける暇がありません。ポケットのスマホに届いている彼女からの通知も、まだ確認できずにいました。
雨の日の配達
僕は宅配便の配達員をしています。
雨の日は、荷物の量が一気に増えます。外出を控えた人たちが、通販を多く使うからです。そのうえ、段ボールを濡らさないように運ぶには、晴れた日の倍近い時間がかかります。
1軒でも遅れると、その後の配達が全部ずれていきます。昼ごはんを食べる時間はなく、スマホを開く余裕もありません。雨の日に彼女のメッセージを読めるのは、仕事が全部終わってからでした。
言えなかった仕事の話
彼女とは3か月前、友人の紹介で知り合いました。初めて会った日、仕事を聞かれて「会社員」とだけ答えました。
配達の仕事に、引け目があったわけではありません。ただ、雨の中を走り回っていると知れば、彼女は雨が降るたびに僕を心配するだろうと思ったのです。
それに、雨の日の配達には手当がつきます。梅雨のあいだに貯めたお金で、彼女が行きたがっていた海辺の花火大会に連れて行くつもりでした。仕事の話は、その旅行の日にしようと決めていました。
「ごめん、今日バタバタしてた」
雨の日の返事は、いつもこれだけでした。彼女がその返事をどう受け取っていたのか、考えもしていませんでした。
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気づかなかったバス停





























