
「お前は練習台なんだから、黙って聞いてて」と言った彼→披露宴のマイクの前で
コラム
マイクの前に立った彼は、練習では一度も読まなかった最後の段落まで、つかえずに話し切りました。拍手のあと、駅へ向かう道で彼が口にしたのは、どちらとも取れる言葉でした。
ローテーブルの上に、何度も書き直された便箋が広げてありました。彼が友人の結婚式で読むスピーチの原稿です。その日も私はクッションを抱えて、彼の練習に付き合っていました。
練習台と呼ばれて
付き合って3年になる彼は、人前で話すのが得意ではありません。大学時代からの友人に友人代表のスピーチを頼まれ、2週間ほど前から私の部屋で練習を続けていました。
新郎は、私たちを引き合わせてくれた人でもあります。原稿には、そのときの話も入っていました。
「私のところは削ったほうがいいよ。新郎の話を増やそう」
よかれと思ってそう伝えると、彼は便箋から顔を上げずに言いました。
「お前は練習台なんだから、黙って聞いてて」
抱えていたクッションを、思わず床に置いたのを覚えています。手伝っているつもりだった時間が、急に意味のないものに思えたのです。
読まれない最後の段落
それからも練習は続きましたが、口を挟むのはやめました。気になったのは、彼が毎回、原稿の最後の段落だけを読まずに終えることです。
「そこは?」と聞いても、「本番で読む」としか答えません。練習台には聞かせる必要がない、ということなのでしょう。
便箋をたたむ彼の横で、私は冷めたお茶を飲み干しました。言い返せば、また練習台だと言われる気がしたからです。
式の当日、私も招待客の1人として披露宴の会場にいました。司会者に名前を呼ばれ、彼がマイクの前に立ちます。膝の上でハンカチを握り、彼の第一声を待ちました。
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一度も詰まらずに




























