「実習先で会った女は」と言った彼→実習先の洋菓子店で私を見た日

コラム

「なんで来たの」。白い帽子の彼は、私と目を合わせないまま銀色のトレーに布をかけました。店の女性が言いかけた言葉の続きは、聞けずじまいです。

冷蔵庫を開けると、彼に頼まれていた牛乳が入っていませんでした。買い忘れたことを謝ると、彼はソファから顔も上げずにため息をつきました。そのあとに続いた言葉が、しばらく頭から離れなかったのです。

牛乳1本で比べられて

「実習先で会った女は、お前と違って気が利くんだよ」
彼はスマホの画面を見たまま、そう言いました。
一緒に暮らす彼は製菓の専門学校に通っていて、2週間前から洋菓子店で実習をしています。
お店の話はよく聞いていたのに、女性がいるとは初めて知りました。
「どんな人なの」
そう聞くと、彼は「普通だよ」とだけ答えて、お風呂場へ行ってしまいました。
実習が始まってから、彼の帰りは遅くなる一方です。
甘い匂いを服につけて帰ってきては、すぐに眠ってしまう日が続いていました。
牛乳1本のことで、顔も知らない女性と比べられたのが悔しくてたまりませんでした。

ガラス越しの横顔

数日後、仕事の帰りに、私はその洋菓子店へ寄ってみることにしました。
どんな女性なのか、自分の目で見ておきたかったからです。
ショーケースの奥はガラス張りの厨房になっていて、白い帽子の彼がすぐに見つかりました。
隣には、同じ帽子とマスクをつけた女性が立っています。
彼は私に気づくと、手元にあった銀色のトレーに、さっと布をかけました。
それから厨房を出てきて、低い声で言いました。
「なんで来たの」
後から出てきた女性が、マスクの上の目を細めて私に話しかけます。
「この子ね、毎日」

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言いかけた言葉
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