
「お前は練習台なんだから、黙って聞いてて」と言った彼→披露宴のマイクの前で
コラム
一度も詰まらずに
スピーチは、練習のときよりずっとなめらかでした。言葉に詰まることは一度もなく、原稿に目を落とすこともほとんどありませんでした。話しながら、彼の視線がときどきこちらのテーブルのほうへ流れていた気がします。
最後の段落は、新郎への感謝を伝える短いものでした。練習で一度も聞いたことのない言葉を、彼は最後まで言い切ったのです。
大きな拍手の中で、私だけが手を叩くのが遅れました。うまくいってよかったと思う気持ちと、あの段落を最後まで聞かせてもらえなかった気持ちが、一緒にあったからです。
そして...
披露宴が終わり、駅まで2人で歩きました。スピーチをほめると、彼は「ありがとう」と言ったあと、前を向いたまま続けます。
「練習台は、今日で終わりな」
それだけ言って、彼は少し歩く速さを上げました。終わりというのは、練習のことなのか、それとも私たちのことなのか。
駅前の横断歩道で足を止めた彼は、振り返って続きを口にしました。思ってもいなかった言葉に、私は少し間を置いてうなずいていました。
あの日私を練習台と呼び、最後の段落だけは聞かせなかった彼。その間、彼は何を考えていたのでしょうか。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)






























