「保険なんて騙されてる」と言う彼が、洗濯機の水漏れで「保険は使わない。俺が払う」

コラム

テーブルに広げた書類に、私は1枚ずつ名前を書き込んでいました。毎年更新している、この部屋の保険の書類です。向かいでそれを眺めていた彼が、ため息まじりに口を開きました。

書類を見た彼の口ぐせ

「保険なんて騙されてる」
彼は書類から目をそらして、そう言いました。
私が1人で借りていたこの部屋に、彼が越してきて1年になります。
保険の話になると、彼はいつもこの言葉で片付けてしまうのです。
「何かあったときのためだよ」と言っても、「何もないから払うだけ損」と取り合いません。
書類の束を、彼は指先で少し向こうへ押しやりました。
自分のお金で払っているものを、そんなふうに言われるのは気分のいいものではありませんでした。
それ以上は言い返さず、私は書類を封筒に入れてポストに出しました。

仕事中の電話

更新から1か月ほどたった日、仕事中に彼から電話がかかってきました。
「ごめん、洗濯機の水が下の部屋まで漏れた」
在宅勤務の彼が回した洗濯機の、給水ホースが外れていたそうです。
急いで帰ると、洗面所の床は彼が拭いたあとでも、まだ濡れて光っていました。
少しして、下の階の住人の方がインターホンを鳴らします。
「天井にしみができてしまって」
彼は何度も頭を下げて、修理費は必ず払いますと約束しました。
その横顔は、これまで見たことがないほど硬いものでした。
住人の方が帰ったあと、彼は寝室へ行き、引き出しを開けたのです。

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