「保険なんて騙されてる」と言った俺が、彼女の保険を使わずに払おうとした通帳の中身

コラム

洗面所の水を拭きながら、頭にあったのは父の口ぐせでした。鞄の内ポケットに入れた通帳が、本当は何のためのお金だったのかを話します。

洗面所の床を拭いても拭いても、水は洗濯機の下から広がってきました。外れたホースを片手に持ったまま、俺は彼女に電話をかけました。修理代のことより先に、彼女の顔が浮かんでいたのです。

父の口ぐせ

「ごめん、洗濯機の水が下の部屋まで漏れた」
電話の向こうの彼女に、まずそれだけを伝えました。
電話を切って床を拭いている間、頭にあったのは父のことでした。
「保険なんて騙されてる」は、もともと父の口ぐせです。
父は昔、知り合いに勧められるまま保険に入り、解約したときには払った額の半分も戻らなかったそうです。
その話を繰り返す父を見て育ち、俺も同じ言葉を使うようになっていました。
父は今でも、保険のパンフレットを見るだけで顔をしかめます。
彼女が更新の書類に名前を書いていたときも、深く考えずに口にしていたのです。

俺が払うと決めた理由

下の階の住人の方に「天井にしみができてしまって」と言われたとき、払うのは自分だと決めていました。
ホースを確かめずに洗濯機を回したのは俺です。
それに、彼女の保険を使えば、彼女が払ってきたお金で俺の失敗を埋めることになります。
それだけは、どうしても嫌でした。
「部屋の保険、入ってるから」
「保険は使わない。俺が払う」
彼女の声を背中で聞きながら、俺は振り向けませんでした。

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通帳の中身
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