
「結婚は妥協だった」と言った俺→笑い声に消えた、そのあとに続けた言葉
コラム
渡しそびれていたクリアファイル
封筒を裏返したのは、中身を確かめるためではありません。開けなくても、何が書いてあるかは知っていました。
「怒ってるわけじゃないの。ただ、あの言葉は聞きたくなかった」
妻にそう言われ、俺は「ちょっと待ってて」と部屋へ向かいました。
机の引き出しには、半年前に印刷した求人票が入っています。妻が内定をもらっていたあの会社が、東京に事務所を出すという告知と一緒にです。
渡すきっかけを、ずっと探していました。この週末に切り出すつもりで、鍋の席でも頭の中で言葉を並べていたのです。
書類の山に埋もれていて、引き出しを何度か開け閉めしてようやく見つけ出せたところでした。
そして...
クリアファイルを封筒の隣に並べ、妻の向かいに座りました。
「これを見てから、さっきの続きを話させて」
妻は求人票を読み終えると、封筒とファイルをしばらく見比べていました。「今さら、どうしろっていうの」と言われ、俺は「どうもしなくていい」とだけ返しました。妻が選べるようにしておきたかった、それだけです。
妻はその場では答えを出さず、ファイルを封筒と一緒に寝室の引き出しへ戻しました。
妥協だったという言葉は、妻ではなく俺自身に向けたものです。あの封筒は妻が手放したものではなく、まだ手放していなかったものなのだと、俺はそのとき初めて気づきました。
(30代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)






























