毎日同じ時間に売り切れる惣菜屋のコロッケ→取り置きを頼んだ日、カウンターの前で振り向いた先客

コラム

振り向いたのは、見覚えのある人

そこにいたのは、同じアパートの1階に住む年配の女性でした。ゴミ置き場で会えばあいさつをする程度で、名前も知りません。

「あら」

女性は少し目を丸くして、軽く会釈をしました。私も頭を下げながら、視線はどうしても紙袋に向いてしまいます。店主が女性に声をかけました。

「いつもの分、全部入れといたからね」

「ありがとう。助かるわ」

女性の慣れた返事から、これが毎日のことなのだと分かりました。いつも同じ時間に消えていたコロッケは、あの紙袋に入っていたのです。

女性はずっしりした袋を両手で抱え、商店街を歩いていきました。あれだけの数を、毎日どうしているのだろう。後ろ姿を目で追いながら、店主に名前を告げました。

「お待たせしました。取り置きの2つです」

店主が差し出した小さな袋には、私の名前を書いたメモが貼ってありました。

そして...

袋を受け取ってお礼を言うと、店主は商店街の先に一度目をやってから、私のほうに向き直りました。この店で店主と目が合ったのは、これが初めてです。

「電話をくれたら、取っておきますからね」

店主のその言葉で、次からは札だけを見て帰らずに済みそうです。手のひらに温かい袋をのせ直して、店を出ました。

それでも、帰り道で考えてしまいます。あれだけのコロッケは、毎日どこへ運ばれていくのでしょうか。そして店主は、なぜこれまで一度も私と目を合わせなかったのでしょうか。

(20代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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