売り切れの札の前で引き返す女性から目をそらしていた私。コロッケを毎日買っていく常連さんの行き先

コラム

2人が鉢合わせた店先

最後の1つを袋に入れたとき、常連さんが後ろを振り向きました。

「あら」

立っていたのは、あの女性でした。2人は軽く会釈を交わしています。知り合いだったのかと、意外に思いました。私は常連さんに紙袋を渡しました。

「いつもの分、全部入れといたからね」

「ありがとう。助かるわ」

常連さんはそう言って紙袋を両手で抱え、商店街を歩いていきました。女性はその後ろ姿を目で追ったまま、取り置きの名前を告げてくれます。私は奥の棚から小さな袋を取りました。

「お待たせしました。取り置きの2つです」

袋を渡してお礼を言われたとき、つい常連さんの歩いていった先に目をやってしまいました。

そして...

それから、女性のほうに向き直りました。ちゃんと目が合ったのは、これが初めてです。予約分なので、と言い訳をするより先に、伝えたいことがありました。

「電話をくれたら、取っておきますからね」

女性は小さな袋を手のひらにのせ直し、頭を下げて帰っていきました。寮の食卓に並ぶ分も、あの人の2つも、同じ油で揚げたコロッケです。

それからは、奥の棚に名前を書いたメモ付きの小さな袋が、ときどき並ぶようになりました。

(50代女性・惣菜店経営)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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