
「押せば止まるだろ」新幹線に乗り遅れた記念日、緊急ボタンを押した俺に彼女が駅員に伝えたひと言
コラム
ホームでのことは、まだ取り返せると思っていました。駅員室で同じ説明を繰り返す俺に、駅員さんが告げたのは、予想していたのとは違う言葉でした。
「乗り遅れそうになって、彼が押しました。子どもはいませんでした」
ホームで彼女がそう言ったとき、俺の手にはまだコーヒーのカップがありました。合わせてくれると信じていた相手に、目の前で本当のことを言われたのです。
「なんとかなるって」で通してきた俺
俺は昔から、時間ぎりぎりで動く人間です。遅れても「なんとかなるって」と笑っていれば、たいてい彼女が先に動いて、どうにかしてくれました。
付き合って3年の記念日旅行も、新幹線と温泉宿を予約してくれたのは彼女です。その日も俺は15分遅れて着き、急かす彼女を置いて売店のレジに並びました。
目の前でドアが閉まり、新幹線が動き出したとき、頭にあったのは指定席と宿のことだけ。彼女が用意してくれた記念日を、自分の遅刻で台無しにしたくありませんでした。気がつくと柱の非常停止ボタンを押していて、「押せば止まるだろ」と口に出していたのです。
とっさに出た言い訳
駆けつけた駅員さんに「ボタンを押されたのはどなたですか」と聞かれ、とっさに出たのが「子どもがホームに落ちそうに見えて」でした。彼女なら合わせてくれる。そう思って、小さくうなずいて見せます。
ところが彼女は一歩前に出て、本当のことを話してしまいました。「お前、何言って」と言いかけた俺に、駅員さんは「お話を伺いますので、駅員室まで来てください」と告げます。
「私はここで帰ります」
「は?記念日だろ」
彼女は首を横に振っただけでした。駅員さんについて階段を下りながら、俺はまだ、同じ説明をすれば通ると思っていたのです。
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手元の画面から顔を上げた駅員さん





























