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    「いいのよ、座って」しか言えなかった。嫁にだけ1時間遅い時刻を送った私の本心

    ライフスタイル

    嫁の顔を見られないまま

    居間から、娘の声が聞こえました。

    「あれ、集合1時間前だったよ?」

    続いて、大叔母のよく通る声。

    「お嫁さんは重役出勤ねえ」

    小さな笑いが広がるのが、台所まで届きました。嫁が笑われているのは、私が送った時刻のせいです。廊下から居間をのぞくと、嫁は立ったままでした。

    「いいのよ、座って」

    大叔母の前で理由を話すわけにもいかず、私はそれだけ言って、嫁の顔を見られないまま台所に戻りました。後から来た息子にも、時刻のことは口にしないまま、その日が終わりました。

    お盆の連絡を送るときも迷いました。時刻を変えれば、今度こそ嫁が台所に呼ばれてしまう。謝る言葉も見つからず、打てたのはこれだけでした。

    「お盆も同じ時間で大丈夫だからね」

    返ってきたのは「分かりました」の一言でした。

    そして...

    お盆の日、まだ大叔母が台所で鍋をのぞき込んでいる頃に、玄関の引き戸が開きました。廊下に出たところで、1人で立っている嫁が目に入り、足が止まったのです。

    「……今日は、早いのね」

    本当の時刻を知って来たのだと分かりました。言いかけた言葉を一度のみこみ、まずは謝らなければと思い直しました。

    「恥をかかせてしまって、ごめんなさいね」

    嫁は少し間を置いてから言いました。

    「次からは、本当の時間を教えてください」

    そう言って靴をそろえると、嫁は自分から台所へ入っていきました。大叔母の小言はその日も続きましたが、私の隣には、嫁が並んで立っていました。

    帰り際、玄関の隅で、30年前の台所のことと、あの1時間の意味を短く話しました。ここで何も話さなければ、お正月と同じになると思ったのです。

    (60代女性・主婦)

    本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

    (ハウコレ編集部)

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