「実習先で会った女は」と言った俺→店の女性が言いかけた「毎日」の続き

コラム

布をかけたトレー

数日後、ガラスの向こうに彼女の姿が見えたとき、手元には試作のタルトが並んでいました。
とっさに銀色のトレーに布をかけて、厨房を出ました。
「なんで来たの」
焦りがそのまま出て、ひどく冷たい声になったと思います。
後から来た店主が「この子ね、毎日」と言いかけたので、慌てて頭を下げました。
「すみません、今日は帰ってもらえますか」
彼女が何も買わずに出ていく背中を、俺はガラス越しに見ているだけでした。
店主には「あんたが一番気が利かないね」と言われました。

そして...

その日、店主は早めに厨房を空けてくれました。
焼き上がったタルトは、レモンの皮のふちが少し焦げています。
紙袋を背中に回したまま、玄関で「ちょっと座って」とだけ言いました。
箱を開けた彼女は、しばらく黙ってタルトを見ていました。
「覚えてたんだ」と言われて、俺は何より先に牛乳のことを謝ったのです。
あとで冷蔵庫を開けると、買い直された牛乳の隣に、俺の好きなプリンが2つ並んでいました。
相手の好きなものを覚えていたのは、最初から彼女のほうでした。

(20代男性・専門学校生)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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